甲状腺とその病気
慢性甲状腺炎(橋本病)
慢性甲状腺炎とは、甲状腺内の蛋白に対する抗体や甲状腺細胞を障害する細胞の存在により、甲状腺が徐々に破壊される病気です(図14)。当院の検討では30~50才台にピークがあり、男女比は圧倒的に女性優位と報告されています。甲状腺機能が正常な場合が多いのですが(当院の統計では65%)、機能が低下する場合もあります(当院の統計では35%)。また稀に機能が一時的に亢進する場合もあります。
甲状腺機能が異常を示さない時は、甲状腺の腫れ(甲状腺腫)以外は症状に乏しいようです。厚生省による全国集計の臨床症状を図16に示します。むくみ、声のかすれ、便秘、寒がり、皮膚乾燥などは甲状腺機能が低下した時の症状です。
機能低下症の自覚症状を検討した当院の成績
- 甲状腺の腫れが70~80%
- 肩こりが約50%
- くびの異物感が約40%
- 疲れやすい、体重増加が30~40%
- 寒がりと声のかすれが約20%
日本甲状腺学会 診断ガイドライン2013
a) 臨床所見
- びまん性甲状腺腫大(甲状腺が全体に腫れている)
ただしバセドウ病など他の原因が認められないもの
b) 検査所見
- 抗甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)抗体陽性
- 抗サイログロブリン(Tg)抗体陽性
- 細胞診でリンパ球浸潤を認める
- 慢性甲状腺炎(橋本病)
a)およびb)の1つを有するもの
付記
- 他の原因が認められない原発性甲状腺機能低下症は慢性甲状腺炎(橋本病)の疑いとする。
- 甲状腺機能異常も甲状腺腫大も認めないが抗ペルオキシダーゼ抗体およびまたは抗サイログロブリン抗体陽性の場合は慢性甲状腺炎(橋本病)の疑いとする。
- 自己抗体陽性の甲状腺腫瘍は慢性甲状腺炎(橋本病)の疑いと腫瘍の合併と考える。
- 甲状腺超音波検査で内部エコー低下や不均一を認めるものは慢性甲状腺炎(橋本病)の可能性が強い。
慢性甲状腺炎の甲状腺機能
- フリーT4とTSHが共に正常の場合
機能正常 - フリーT4は正常でTSHが高値の場合
潜在性機能低下:甲状腺の働きが悪いためTSHを増加させ、甲状腺機能を正常に維持している状態 - フリーT4が低値でTSHが高値の場合
機能低下:TSHを増加させ甲状腺を剌激しても血中甲状腺ホルモンの値を維持できない場合