岐阜赤十字病院
なぜ?なに?甲状腺

甲状腺とその病気

慢性甲状腺炎の治療と注意点

治療

甲状腺機能が低下しているときは、原則として甲状腺ホルモン剤(チラジンS・レボチロキシンNa)を1日1回服用します。この薬は、甲状腺ホルモンの分泌低下を補うもので、視力が悪くなった人が眼鏡をかけるようなものです。最初から度の強いメガネを掛けると、目が疲れてしまうように、甲状腺ホルモン剤も1~2ヶ月かけて徐々に量を増やしていきます。眼鏡で言えば、ちょうどいい度の眼鏡に合わせるように、患者さんにとって適切な量に調整します。普通の成人でだいたい2~3錠服用しますが、この薬は他の病気になった時も中止してはいけません。他の病気になった時でも、眼鏡をかけているのと同じことです。この薬は朝2錠服用すると、1週間たっても1錠分は体の中に残っているので、1~2回服用を忘れても症状はでませんが、必ず毎日服用することが大切です。

橋本病の患者さんの中にはヨードを過剰に摂取したため、甲状腺機能が低下している場合もあります。そのような患者さんは昆布類などのヨードの摂取を制限するだけで、甲状腺機能が回復する場合があります。

潜在性の甲状腺機能低下状態ではヨード制限で経過をみる場合や甲状腺剤を服用する場合がありますので、主治医とご相談下さい。

甲状腺剤治療の適応の場合
  1. 抗甲状腺抗体が陽性
  2. TSHが10μU/ml以上
  3. 脂質系の異常
  4. 不妊・卵巣機能異常
  5. 妊娠中

甲状腺機能が正常な時でも、徐々に機能が低下する場合は自覚症状の変化がはっきりしないため、1年に1回程度、甲状腺の検査を受けるようにして下さい。

参考

  1. 甲状腺の機能が低下すると年令以上に年をとったようにみえます(図15)。
  2. 肝機能が異常を示すことがあり、肝硬変として治療を受けていた患者さんもみえました。
  3. 甲状腺機能が低下すると、コレステロールの代謝が抑制され、高コレステロール血症を示します。
  4. 甲状腺剤は長期に処方できますので、量が決まれば半年に1度の来院でOKです。
  5. 急速に甲状腺が大きくなった場合は、悪性リンパ腫の合併も考えられますので、精査が必要です。早急に来院をお願いします。

甲状腺機能低下症の症状

飲み薬(甲状腺剤)の服用時間と粉砕化

一般には食後に服用することが多いのですが、食事の内容によっても吸収に差があるようです。また、食後に比べ空腹の方が甲状腺剤の吸収の良いことが知られています。同じ量の甲状腺剤を服用していても、血中の甲状腺ホルモン値にバラつきのある場合は、就寝前の服用が良いかも知れません。一部の患者さんでは錠剤が完全に溶ける前に腸を通りすぎてしまい、吸収が不十分な場合があります。そのような時は甲状腺剤を粉砕した形で服用して頂く場合もあります。

飲み薬(甲状腺剤)によるアレルギー

甲状腺剤(チラジンS・レボチロキシンNa)では、まれに添加物による薬疹や肝障害の報告があります。このような場合は、色素が含まれていないチラージンS50μg錠(またはレボチロキシンNa50μg錠)または添加物の少ないチラージンSの散剤へ変更し、経過を観察します。

コーヒーと甲状腺剤

イタリアの研究で、甲状腺剤の服用と同時または服用20~30分以内にコーヒーを飲むと、甲状腺剤の吸収が妨げられることが報告されました。ただし間隔が1時間以上あれば問題は無いとのことです。甲状腺剤を服用後に、コーヒーを飲む人は注意が必要です。

慢性甲状腺炎と妊娠

妊娠11週以前の妊娠初期の胎児は甲状腺機能の発育が未熟で、母親の甲状腺ホルモンを利用して成長しています。この期間に母親の甲状腺機能が正常に維持されていないと、胎児の精神・神経系の発育に支障が生じることがあると言われています。そのために、慢性甲状腺炎を罹患している患者さんの妊娠が判明した場合には、甲状腺剤の服用有無に関わらず甲状腺機能のチェックを受ける必要がありますので、早急に受診してください。

米国内分泌学会では妊娠1期はTSHを2.5μU/ml以下に、2期と3期では3.0μU/ml以下にコントロールするよう勧めています。また、妊娠初期に抗ぺルオキダーゼ(TPO)抗体と甲状腺機能をチェックし、TSHが2μU/ml以上か、抗TPO抗体が陽性または高値の妊婦さんにはT4の投与を勧めた方が良いとの報告もあります。

参考:甲状腺を全摘した患者さんが妊娠したら、服用する甲状腺の量を例えば、毎日1錠服用中であれば、週に2日間2錠服用するように、約30%増すことを勧めています。

慢性甲状腺炎の急性増悪

くびの痛み、腫れ、発熱などの亜急性甲状腺炎のような症状が慢性甲状腺炎の患者さんに起きる場合があります。炎症所見や甲状腺機能検査は亜急性甲状腺炎とほぼ同じですが、多くは、抗炎症剤や副腎皮質ホルモン剤を投与する治療に抵抗性で機能低下が回復しません。

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