岐阜赤十字病院
なぜ?なに?甲状腺

甲状腺とその病気

甲状腺機能亢進症の治療についての注意点

飲み薬(メルカゾール、プロパジール)の服用にあたって

  1. 効果がでるまで2週間から2ヶ月かかります。甲状腺ホルモンが正常域に入るまで、過激な運動は避けて下さい。
  2. 効果がでると体重が増えてきます(普通5〜10kg)。これは、治療により、甲状腺ホルモンが低下して、治療前より無駄にエネルギーが消費されなくなるのですが、食事のほうは治療前と同様、習慣的にたくさんとるためです。体重が増えるのが嫌な人は、食事の量を減らしてください。飲み薬の副作用ではありません。
  3. 薬の服薬で甲状腺機能が落ちてくると筋肉が硬くなり、ふくらはぎがつったり、肩がこったりします。また、便通が悪くなります。このような時は、薬の量が多いことが考えられますので、主治医にご相談ください。
  4. 約2ヶ年服用が必要で、約6割の人が服用を中止できます。
  5. 服用始めてから甲状腺ホルモンが正常化するまでは2週間に1回、正常化した後は4週間に1回、2年目は6〜8週間に1回の受診が必要です。当院では原則として予約です。
  6. 食事中のヨードが多いと飲み薬が効きにくい場合がありますので、昆布やひじきを普段の摂取量より取りすぎないに気を付けましょう。

メルカゾール、プロパジールを服用後に起こる注意すべき副作用

高熱やのどの痛み

1,000人に3人程度で大変まれですが、薬のために白血球(実際にはその中の顆粒球)が減り、扁桃腺炎をおこして38~39度の高熱とともにのどの痛みがおこることがあります。このような時には服用を中止して、直ちに主治医にご相談いただくか、近くの病院で白血球数を調べてもらってください。このようなことは服用後から3ヶ月の間に起きることがほとんどですが、"かぜ"かなぁと自己判断しないで必ず診療機関を受診するようお願いします。治療が遅れると、肺炎などを引き起こして生命に危険が生じます。

当院ではいつでも、白血球を測定できるように備えています。もし白血球が減少していれば、入院していただくことになります。治療としては抗生物質や白血球を増やす薬を投与いたします。

長期間服用している場合では、白血球減少がおこることは非常にまれです。しかし、初回は起きなくても、まれに再投与で白血球減少が起きる場合もあります。この場合は再投与6週以内が多いと言われています。なお、メルカゾールやプロパジールは他の薬と併用しても支障ありません。

メルカゾールの安全性情報

平成16年2月にメルカゾールの無顆粒球症(顆粒球が500/mm3未満)の発現についての安全性情報が製薬会社から出されました。それによりますと、平成13年10月から平成16年1月までの2年4ヶ月間に無顆粒球症や白血球減少等の副作用が76例報告されており(図13)、その内、5人の方が亡くなったとのことです。それを受け、

  1. 少なくとも投与開始2ヶ月間(再投与の場合を含む)は、原則として2週に1回血液検査を行い、白血球分画(顆粒球の%をみるため)を確認すること。その後も、定期的に血液検査を行い、白血球分画を確認すること。
  2. 発熱・のどの痛み等の症状がみられた場合には、すみやかに主治医(病院)に連絡するよう患者さんに説明すること。

を勧められました。当院でもこの勧告にそって、患者さんの診察を行っています。早期にこの副作用を発見するために、ご協力をお願いいたします。
このような方針は示されていますが、現在でも本邦では死亡例が無くなっていません。初診の患者さんで、甲状腺ホルモン値が高いのみでメルカゾ−ルやプロパジールの投与を既に受けていることがありますが、バセドウ病を確実に診断し細心の注意を払って投与しなければいけないと強く思っています。

発症までの投与日数

皮膚疾患

薬を飲み始めて1週間ほどで皮膚にかゆみや発疹などが出ることがあります。その場合は抗アレルギー剤を併用すると改善することがあります。しかし症状が改善しない場合は、メルカゾール(またはプロパジール)の量を減らし、軽快しないときはメルカゾール(またはプロパジール)の服用を中止し、主治医にご相談ください。

黄疸を示す症状

白目や皮膚が黄色くなったり尿の色が急に濃くなるなどの黄疸を示す症状や、食欲不振、吐き気などの症状は薬の副作用による肝臓の障害も考えられます。その場合も服用を中止して直ちに主治医にご相談ください。

プロパジールと血管炎

プロパジール(まれにメルカゾール)を服用中に血管炎が生じることがあります。抗甲状腺剤服用1万人当たり0.53~0.79人と報告されています。長期服用後に起きる事が多いようです(本邦92例の検討では中央値42ヶ月、範囲1−372ヶ月)。

報告があった障害のおきる臓器
  • 腎臓38%(血尿、蛋白尿)
  • 肺19%(喀血、呼吸困難)
  • 皮膚14%(潰瘍、紫斑、皮疹)
  • 関節14%(関節腫脹、関節痛)
  • 眼6%(ブドウ膜炎、強膜炎)
  • 筋5%(筋肉痛)

多くはプロパジールを中止すれば軽快しますが、ステロイドの投与が必要となることもあります。発熱、関節痛、筋肉痛、カゼ症状などの症状に注意が必要です。当院でも経験しています。
※血管炎:全身の血管のどこかに炎症が起き、さまざまな組織や臓器が侵される病気

バセドウ病と妊娠

甲状腺機能が亢進した状態での妊娠は母体の心不全、妊娠中毒症、胎児の流早産、発育遅延のリスクがありますので、妊娠前の甲状腺機能のコントロールが重要です。メルカゾールで甲状腺ホルモンを正常にして落ち着いた状態になってから妊娠した方が安全です。
しかし、メルカゾールを服用していると、頭皮欠損、臍腸管痩または尿膜管残存、臍帯ヘルニア(へそに関連した異常)、後鼻孔閉鎖(日本では少ない)、食道閉鎖(日本では少ない)といった特有の奇形がでることがあります。へそに関連した奇形や頭皮が欠損するものが多く、ほとんどは生後の手術でよくなるものです。しかしながら、これらの奇形を回避するために、妊娠5週までに極力メルカゾールを避けた方がよいと考えられています。16週以降はメルカゾールを服用しても問題はありません。
まずは、計画妊娠をお勧めします。メルカゾール服用開始後3ヶ月以上経って副作用がないことを確認し、1日1錠もしくは1日おきに1錠で甲状腺ホルモンが正常に安定するまでは妊娠は避けるようお願いします。

また、妊娠中は一般的にバセドウ病の症状は軽くなり、TRAb(TSAb)も低下してくることが多いです。しかし、出産前にTRAb(TSAb)が高いままの場合には新生児にー過性のバセドウ病が生じ、治療が必要となる場合があります。また、外科的療法やアイソトープ治療を受けた方が妊娠した場合でも、妊娠後半にTRAb(TSAb)が高いままですと胎児の甲状腺を刺激する可能性がありますので、出産前に主治医とよくご相談ください。

主治医が妊娠可能と判断した場合
  • 月経が規則正しい28日周期の方は、予想される月経が2~3日遅れた時点でメルカゾールの服用を中止し、月経があれば再開してください。妊娠が判明したら、早急に受診をお願いします。
  • 月経が28日周期でない方や乱れる傾向にある方は、基礎体温をつけてください。排卵日から16~17日過ぎても月経がこない場合にはメルカゾールの服用を中止し、月経があれば再開してください。妊娠が判明すれば、早急に受診をお願いします。

メルカゾールの服用量が多く減量が難しい場合

メルカゾールの減量が難しく服用量が多い方で妊娠を希望される場合は、別の治療法(手術・アイソトープ治療)への変更が必要な場合があります。メルカゾールではなく、プロパジールで開始する方法もありますが、効果が弱い・重症肝炎や腎障害などの副作用がある、という欠点がありますので、主治医とよくご相談ください。 もし、主治医が妊娠可能と判断する前に妊娠した場合には、妊娠が判明した時点でメルカゾールの服用を中止して早急に受診するようお願いします。

授乳

メルカゾールは母乳に移行するため、以前は授乳期にはプロパジールが使われてきました。しかし、副作用の問題などで現在プロパジールはあまり使用されていません。
日本甲状腺学会のカイドラインでは、メルカゾールは1日10mg(2錠)までの内服であれば完全母乳で通常通り授乳しても問題ないとされています。それ以上に内服される場合は、服用から6時間までは人工栄養とするか、乳児の甲状腺機能をチェックすることを勧めています。

バセドウ病とタバコ

バセドウ病では時に、眼が飛び出したように見える・眼の上下のまぶたが腫れる・モノが二つに見える・見にくい等の眼の症状が現れます。これは、甲状腺機能低下症や機能が正常な人にも出現する事はありますが、どうして起きるのかはわかっていません。治療中に軽快することもありますが、逆に悪化する事もあります。最近では、タバコと眼の症状との関係が注目されていて、タバコを吸わない人に比べて吸う人、特にヘビースモーカーに目の突出が多く、治療中も眼の症状の悪化する場合が多いと報告されており、禁煙の重要性が指摘されています。眼の治療にはステロイド投与や眼の奥への放射線照射、手術などがありますが、喫煙者はまず禁煙することが重要です。治療については主治医に相談下さい。

また、タバコがバセドウ病の治療そのものに影響するとの興味ある報告もあります。多数例の検討で、治療開始5年の時点で、タバコを吸わない人では48%が寛解したのに対し、喫煙者では18%しか寛解を示しませんでした。その後に禁煙した人はその5年後には73%が寛解したのに、禁煙しなかった人は14%しか寛解しなかったというものです。また禁煙者や喫煙本数を減らした人ではその78%の人のTSAbが半減したのに、喫煙者では14%に留まったとも言われています。このことからも禁煙が治療効果に大きく影響する可能性があり、治療に当たっては禁煙が重要となります。

バセドウ病と花粉症

バセドウ病にどうしてなるのか?またどのような時に悪化するのかよく判っていませんが、最近の研究によると、一つの原因として花粉症が挙げられています。花粉症になったあとにバセドウ病になった例や、治療により落ち着いていたバセドウ病の甲状腺機能が悪化した例が見つかったからです。春から夏にかけて外来を訪れる患者さんが多いのも花粉症と関係があるのかも知れません。

バセドウ病とIgE

免疫グロブリン(IgE)は血液中に存在する微量な蛋白質で、各種アレルギー疾患(花粉症、アトピー性皮膚炎、気管支喘息)や寄生虫疾患などにより増加することが知られています。バセドウ病患者さんの1/3はこのIgEが高い値を示しており、そのような場合はIgEが正常の患者さんに比べて寛解に入りにくいと報告されています。1年半の治療でIgEが高い値の患者さんでは寛解が36%、また正常の患者さんでは64%となっており、バセドウ病と何らかのアレルギーとの関連に興味が持たれています。

メルカゾール?、それともプロパジール?

妊娠初期を除きメルカゾールの使用が、早期治療効果・副作用・服用の簡便さ、などの面から、第一選択薬と言われています。

メルカゾールの投与量

従来、メルカゾールは1日30mg(1錠5mgなので6錠)で治療を開始することが一般的でした。甲状腺学会の最近の検討では治療前のfree T4が5ng/dl以下ではメルカゾール30mgと15mgで同等の治療効果が得られ、7ng/dl以上では30mgのほうが15mgより早く甲状腺機能を正常化できる結果を示しました。一方、メルカゾールの副作用は30mgのほうが15mgより多い結果でした。これらの報告もあり、当院では少量で投与開始することが多くなってきています。

抗甲状腺剤の投与期間

メルカゾールやプロパジールの投与期間については、一定の見解はありません。一般的には投与期間が長ければ長いほど再発は少ないと考えられています。最近、メルカゾール(またはプロパジール)を隔日に1錠服用で6ヶ月間、甲状腺機能が正常であった57名の患者さんで、抗甲状腺剤の服用を中止したところ、内46名(81%)は2年間以上甲状腺機能が正常を維持されたとの興味ある報告がなされました。その報告では中止時に、TRAb(第1世代での測定)>30%、TSAb>2000%であった患者さんは全例再発したとのことです。また、最少量の投与期間が長いほど、寛解率(抗甲状腺剤を投与中止後、甲状腺機能が正常を維持する率)が高いとの報告もあります。

甲状腺クリーゼ

甲状腺クリーゼとは甲状腺機能亢進症が重症化した状態のことです。コントロール不良やそれまで診断がされていなかったバセドウ病患者さんが、緊急手術・交通事故や他の疾患(肺炎、虫垂炎、糖尿病昏睡など)にかかった時に起こることがあります。高熱・精神症状・心不全・消化器症状・ショック・腎不全など多彩な症状をあらわれ、生命の危機を引き起こすこともあります。この場合は適切な治療が行われても死亡率は高いと報告されています。

潜在性甲状腺機能亢進症

潜在性甲状腺機能亢進症とは血中の甲状腺ホルモン値は正常ですが、TSHが低値の状態を言います。多くは甲状腺剤の服用量がやや多いことによりますが、治療を受けていないバセドウ病や腺腫様甲状腺腫の患者さんの一部でも見られます。この病態では、脈拍が多く心房細動の頻度が高く、骨密度の減少、骨折の頻度が高いと報告されています。どのような患者さんを積極的に治療するべきか?について一定の見解は有りませんが、閉経後の女性・高齢者・心臓病や 骨粗しょう症の患者さんでTSHが0.1μU/ml未満の患者さんは治療した方が良いとの意見を参考にしています。

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