岐阜赤十字病院
なぜ?なに?甲状腺

甲状腺とその病気

甲状腺の検査

甲状腺の病気で受診された患者さんに、当院ではどのような検査が、どのような理由で行なわれているかを簡単に説明したいと思います。

一般検査

一般の検査では、貧血の有無・白血球の数・肝臓の検査・炎症の有無等を血液で調べます。白血球の数が正常で、炎症所見が強い場合は甲状腺の炎症(特に亜急性甲状腺炎)を考えます。肝機能の異常は甲状腺機能亢進症(バセドウ病)、甲状腺機能低下症、亜急性甲状腺炎などで認められ、時には誤って肝臓の病気として治療を受けている場合もあります。また、甲状腺の治療で肝臓や血液の障害を生じる場合があり、治療に用いた薬剤が原因で生じたかは治療前の数値がわかっていないとの判断ができないため、治療前のデータが必要です。

心電図検査では脈の数値を診ますが、バセドウ病や亜急性甲状腺炎では脈の数が増え、機能低下症では脈の数が減ることが多くなります。その場合は治療が必要な時があります。胸部レントゲン写真では、バセドウ病や低下症による心不全を起こしていないかを診ます。また、甲状腺が大きい時や結節がある場合は、気管が細くなったりどちらかに傾いたりすることがあり、それらを知るために必要です(図6)。

甲状腺の腫れのため気管が右に圧排されている

甲状腺ホルモンの測定

甲状腺ホルモンの測定は、甲状腺ホルモンが増加する病気(バセドウ病、亜急性甲状腺炎、無痛性甲状腺炎など)、不足する病気(機能低下症)、また変化のない病気のどれかを知るために行なわれます。現在、当院は甲状腺ホルモン測定が全自動で行なえる機械を導入しており、急ぐ場合は採血から約1時間でホルモンの値がわかります。

甲状腺ホルモンであるT3とT4の大部分は血中で蛋白質と結合していますが、一部は蛋白室と結合せず遊離(フリー)の状態で存在しています。作用するのは、フリーのものと考えられており、通常はフリーT3とフリーT4を測定し、甲状腺刺激ホルモン(TSH)も測定します。甲状腺に病気があり、甲状腺ホルモンの分泌が減るような場合(甲状腺機能低下症)は、TSHの分泌が増し、甲状腺から甲状腺ホルモンの分泌を促進するように働きます(図3)。逆に、甲状腺から甲状腺ホルモンの分泌が増す病気(例えばバセドウ病)では、TSHの分泌は無くなり、甲状腺からのホルモン分泌を抑制するように働きます。当院での正常範囲は、フリーT3〔2.3−4.0pg/ml〕、フリーT4〔0.9−1.7ng/dl〕、TSH〔0.5−5.0μU/ml〕です。

甲状腺の中にある蛋白に対する抗体の検査(抗甲状腺自己抗体)

バセドウ病や慢性甲状腺炎(橋本病)では、甲状腺内の蛋白(サイログロブリン(Tg)やペルオキシダーゼ(TPO))に対する抗体が血中に認められることが多く、一般的にはそれらが存在しない亜急性甲状腺炎や甲状腺の腫瘍との鑑別に役立ちます。正常範囲の抗サイログロブリン抗体は<54.6IU/ml、抗ペルオキシダーゼ抗体は<16IU/mlです。

抗TSH受容体抗体(TRAb)と甲状腺刺激抗体(TSAb)

TSHが甲状腺に結合する部位(受容体)に対する抗体をTRAbと呼びます。TRAbはTSH受容体に結合し、甲状腺を刺激し、甲状腺ホルモンの合成・分泌を促進するものと考えられています。しかし、TRAbの一部にはTSH受容体に結合しますが、甲状腺を刺激せず、むしろ甲状腺機能を阻害する性質をもつ物もあります。TSAbは甲状腺への刺激の程度を直接測定することによって求められます。両者ともにバセドウ病の診断に用いられます。この両抗体は主に甲状腺の中で作られていると考えられています。さらに、これら抗体の陰性化が、抗甲状腺剤を中止する条件と考える医師が多いようです。TRAbの正常範囲は2.01IU/1未満です。またTSAbの正常範囲は120%以下です。

サイログロブリン(Tg)

サイログロブリンは甲状腺ホルモンの合成に重要な役割を果たしている蛋白です。多様な種類の病態で増加します。例えば、バセドウ病、亜急性甲状腺炎、腺腫様甲状腺腫、甲状腺結節(良性・悪性)などです。経過観察(手術や投薬の効果判定)には役立ちますが、サイログロブリンの値からどのような病気であるかを知ることはできません。また測定の際に、血中にサイログロブリンに対する抗体(抗サイログロブリン抗体)が存在すると正確な値を求めることはできません。正常値は33.7ng/ml以下です。

甲状腺の超音波検査(エコー検査)

超音波検査では、甲状腺の形・大きさ・内部に炎症・結節・のう胞(水たまり)・石灰化があるかがわかります。また、甲状腺周囲のリンパ節の状態も観察します。

甲状腺の細胞検査(細胞診)

細胞診は甲状腺を細い針でついて中の細胞を調べる検査で、炎症細胞や悪性細胞の存在をみるために行ないます。甲状腺癌の8〜9割(特に甲状腺乳頭癌)はこれで診断が可能です。きわめて安全ですが、時に甲状腺内または皮下への出血があります。安全にまた確実に甲状腺の細胞を採取するために、(大きな病変を除いては)超音波で病変を見ながら細胞を採取しています(図7)。

超音波下細胞診

放射能を用いる検査

放射能を用いる検査には、甲状腺の働き具合や甲状腺のどこが働いているかを診る検査(放射性ヨードやテクネシウムを用いる)と、これらの検査では一般的には描出されない甲状腺の結節をみるために行なわれる検査(放射性のガリウム、タリウム)があります(図8)。

国際放射線防護委員会は、テクネシウム投与後12時間は授乳を停止するよう勧告していますが、心理的な側面を配慮して24時間空ける施設もあります。

放射性ヨードによるシンチ像

甲状腺のCT検査

CT検査では甲状線に結節がある場合に、それが気管を圧迫しているか?どの程度の大きさか?血管との関係はどうか?リンパ節が腫れているか?などを知る時に行ないます(図9)。

CT画像

眼窩MRI

眼窩MRIはバセドウ病眼症が存在する場合に、程度や治療法の選択のために行われます。

眼窩MRI画像

PET検査

最近ではPET検査を行い甲状腺に取り込みを認めた患者さんが、甲状腺癌を心配して受診されることが多くなっています。しかし、良性の結節や慢性甲状腺炎などでも取り込まれので、PET検査だけでは悪性と良性の鑑別はできません。すでに甲状腺癌と診断された患者さんの経過観察には有用な場合もあります。

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