岐阜赤十字病院
なぜ?なに?甲状腺

甲状腺とその病気

甲状腺の悪性腫瘍

甲状腺の悪性腫瘍は、組織的に分かれています。

  • 甲状腺乳頭癌
  • 甲状腺濾胞(ろほう)癌
  • 甲状腺髄様癌
  • 甲状腺未分化癌
  • 甲状腺悪性リンパ腫

乳頭癌と濾胞癌は若年から中年に、髄様癌は中年に、未分化癌と悪性リンパ腫は高齢者に好発すると言われています。当院の平成23~27年の5年間に診た内科初診患者さん359例の検討では、乳頭癌334例(93.0%)、濾胞癌12例(3.3%)、乳頭癌と濾胞癌の合併が1例、悪性リンパ腫7例(1.9%)、髄様癌3例(0.8%)、未分化癌2例(0.6%)でした。

甲状腺乳頭癌

甲状腺乳頭癌はあらゆる癌の中でも最も性格がおとなしく、健康な30代の女性では約3%の人に認められます。甲状腺に関係のない病気で亡くなった人を詳しく調べると、その11.4〜28.4%にの人に認められたとの報告もあります。乳頭癌は発見されても小さいことが多く70%は直径3mm以下で、臨床的に問題となることは少ないようです。また、首のリンパ節へ転移することは多いのですが、骨や肺への転移は少ないようです。

症状

痛みのないしこりが首にでき、進行すると声が出にくいことがあります。

検査および診断

甲状腺機能は正常で、エコー検査と細胞診によって診断されることが多いです。広がりを検査するために、胸部X線写真・頸部CT、またタリウムシンチグラフィが行われます。

治療

甲状腺の切除と首のリンパ節切除が行われます。

経過

手術後の経過は首のリンパ節に転移があっても、転移のない人と変わらないと言われています。別府の野口病院では3,149例の乳頭癌の検討で、腫瘍の大きさが10~19mmの患者さんの30年生存率は98.2%、20~29mmでは95.4%、また30mm以上は87.5%という、良好な成績が示されています。一般の癌では年齢が若いほど病勢が強いようですが、乳頭癌や濾胞癌では55歳未満の患者さんの経過は極めて良好で、特に20歳未満では転移や再発があっても良好です。しかし、定期的な首の触診とエコー検査は必要です。

甲状腺濾胞癌

甲状腺濾胞癌と良性の濾胞腺腫との見分けは、エコー検査や細胞診でも困難なことが多くあります。当院では長径3cm以上の腫瘍は、濾胞癌の存在が否定できないので手術を勧めています。濾胞癌は乳頭癌とは異なり、肺や骨に転移することが多いと言われています。

甲状腺髄様癌

甲状腺髄様癌は遺伝が関係しており家族内で発生することがあります。また、下垂体や副腎など他の内分泌器官の腫瘍を合併することもあります。

甲状腺未分化癌

甲状腺未分化癌は治療が困難な癌のひとつで、化学療法、放射線照射による治療が行われます。

甲状腺悪性リンパ腫

悪性リンパ腫は慢性甲状腺炎をベースとして発生すると考えられており、治療は化学療法と放射線照射が基本で、経過は比較的良好です。正確な診断のために、甲状腺の一部(1cmのさいころ程度)を採る必要があります。

甲状腺の手術

平成28年4月から平成31年3月までの3年間に当院で手術され、細胞診と病理診断の結果が電子カルテ内に保存されている例を表1に示します。当院では、通常は細胞診のクラス4と5は手術を選択しています。一方、クラス3~1では、結節の大きさやエコー像の所見、気管への影響など総合的に判断し、手術を行っています。

病理所見と細胞診の関係

放射性ヨード(Ⅰ-131)による残存甲状腺の破壊(アブレーション)

アブレーションは遠隔転移の無い分化型甲状腺癌で、甲状腺全摘後に行います。

  1. 残存甲状腺を破壊し、再発や転移を予防するため
  2. アブレーション後、血中サイログロブリン値やI-131によるシンチグラフィで再発や転移を早期発見するため(後述のテストの前段階として)

方法

方法は以下の2通りあり、合成されたTSH(タイロゲン)を用いて行います。それぞれメリットとデメリットがありますので、担当医と良くご相談下さい。

  • 甲状腺剤を服用したまま行う
  • 甲状腺剤の服用を注視して行う

手術後のテスト検査

甲状腺癌の患者さんに甲状腺全摘後で特にアブレーション後は、以下の理由でテストを行うことがあります。

  1. 甲状腺組織の残存確認
  2. 甲状腺ホルモンの原料であるヨードを取り込む癌の組織の有無
  3. 転移癌の有無

この検査の前処置はアブレーションの時と同じで、判定は放射性ヨード(I-131)によるシンチグラフィ像と血中サイログロブリン値で行います。図21に例を示します。

テストのシンチ像

甲状腺癌転移巣に対する放射性ヨード(Ⅰ-131)大量療法

肺や骨に転移がある場合、大量のI-131(120〜150 mCi程度)を用いた治療が有効なことがあります。残念ながら当院では設備の問題で行えないので、必要な時は他院に治療をお願いしています。図22は他院でI-131を大量服用した患者さんのシンチグラフィ像です。

肺転移に対する放射性ヨード大量療法

甲状腺癌の化学療法

未分化癌の治療には手術や放射線療法に抗癌剤治療を追加または単独で用いられます。また、放射線治療が難しい場合や根治切除が不能な甲状腺分化癌、および未分化癌に対しては、腫瘍の増殖にかかわるシグナルを特異的に阻害する分子標的薬が使用されます。
効果はあるのですが、高血圧・手足症候群・蛋白尿など特徴的な副作用を示す場合が少なくなく、当科では患者さんおよびご家族に十分な説明と同意を得た後に治療を行っています。

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