岐阜赤十字病院
なぜ?なに?甲状腺

甲状腺とその病気

亜急性甲状腺炎と無痛性甲状腺炎

何らかの原因で、甲状腺が壊れて一過性に甲状腺中毒症状を示す病気です。 "みかん"をぐっと力強く握るとつぶれてしまい、汁が飛び出てしまいますが、甲状腺の場合は甲状腺が破壊され、甲状腺ホルモンが飛び出てしまう状態です。
主な病気は2種類あり、甲状腺に痛みのある亜急性甲状腺炎と痛みのない無痛性甲状腺炎です。

亜急性甲状腺炎とは

この病気は風邪に引き続いておこる甲状腺の炎症で、ウイルスが原因と考えられており遺伝も関係していると言われています。白血球の型のHLA-B 35を持っている人は、日本人の約8%ですが、亜急性甲状腺炎の患者さんは約半数がこの型を持っていると言われています。発症に季節変動があると言われ、当院では1~2月と6~9月にピークが認められました。また、男女比は1:7で女性が圧倒的に多く、年齢は30~59才が大部分を占め40才台にピークがありました。

症状

甲状腺は触れなくても痛みがある自発痛や押さえると痛みがある圧痛が強く、軽度ですが大きく硬くなります。また、右の首が痛んでいたが、しばらくすると左に痛みが移ったなどというように痛みが移動したり、放散し耳や顎まで痛む場合もあります。

全身症状

  • 発熱や全身倦怠感:午前中より午後から夜の方が症状が強い
  • 頻脈(脈のかずが多い)
  • 発汗
  • 手のふるえ
  • 体重減少

日本甲状腺学会 診断ガイドライン2013

a)臨床所見

  • 有痛性甲状腺腫

b)検査所見

  1. CRPまたは赤沈高値
  2. フリーT4高値、TSH低値(0.1μU/ml以下)
  3. 甲状腺超音波検査で疼痛部に一致した低エコー域

  1. 亜急性甲状腺炎
    a)およびb)の全てを有するもの
  2. 亜急性甲状腺炎の疑い
    a)とb)の1および2

除外規定

  • 橋本病の急性増悪
  • のう胞への出血
  • 急性化膿性甲状腺炎
  • 未分化癌

付記

  1. 上気道感染症状の前駆症状をしばしば伴い、高熱をみることも稀でない。
  2. 甲状腺の疼痛はしばしば反対側にも移動する。
  3. 抗甲状腺自己抗体は高感度法で測定すると未治療時から陽性になることもある。
  4. 細胞診で多核巨細胞を認めるが、腫瘍細胞や橋本病に特異的な所見を認めない。
  5. 急性期は放射線ヨード(またはテクネシウム)甲状腺摂取率の低下を認める。

CRPや赤沈高値は炎症の存在を示しています。明らかな白血球増加はないと言われていますが、当院の検討では31%の患者さんが軽度の増加を示しました(最高13600)。また肝機能検査で異常を示すこともあります。

治療

抗生物質は無効で抗炎症剤を投与し、症状が強い場合は副腎皮質ホルモンを投与します。また、脈が早い時は症状を抑えるために、他の薬を服用する場合もあります。途中で服用を止めると症状が悪化することがありますので、指示どおりの服用をお願いします。

経過

2週間~3ヶ月の間の甲状腺ホルモンが高い時期を越えると、甲状腺ホルモンは正常化します。一部の患者さんは機能が正常に戻ってから2週間~1ヶ月後に、甲状腺機能の低下が1~4ヶ月間ほどみられることがあります。その場合でも自然に良くなりますが、まれに機能が回復しない場合もあります。

無痛性甲状腺炎とは

この病気は慢性甲状腺炎(橋本病)に何らかの原因が加わり、甲状腺が破壊されて血中の甲状腺ホルモンが増加した病気です。大きく分けると、出産2~6ヶ月後に起きる場合と出産に関係なく起きる場合があります。出産に関係のない場合は、甲状腺機能亢進症との鑑別が必要となります。

症状

亜急性甲状腺炎とは異なり、発熱や甲状腺の痛みはありません。

  • 頻脈
  • 発汗過多
  • 手のふるえ
  • 体重減少

日本甲状腺学会 診断ガイドライン2013

a)臨床所見

  1. 甲状腺痛を伴わない甲状腺中毒症
  2. 甲状腺中毒症の自然改善(通常3ヶ月以内)

b)検査所見

  1. フリーT4高値
  2. TSH低値(0.1μU/ml以下)
  3. 抗TSH受容体抗体(TRAb)陰性
  4. 放射性ヨード(またはテクネシウム)甲状腺摂取率低値

  1. 無痛性甲状腺炎
    a)およびb)の全てを有するもの
  2. 無痛性甲状腺炎の疑い
    a)の全てとb)の1~3を有するもの

除外規定

  • 甲状腺ホルモンの過剰摂取例を除く

付記

  1. 慢性甲状腺炎(橋本病)や寛解バセドウ病の経過中発症するものである。
  2. 出産後数ヶ月でしばしば発症する。
  3. 甲状腺中毒症状は軽度の場合が多い。
  4. 病初期の甲状腺中毒症が見逃され、その後一過性の甲状腺機能低下症で気付かれることがある。
  5. 抗TSH受容体抗体(TRAb)陽性例が稀にある。

炎症所見は陰性で、甲状腺エコーにて限局性の低吸収域を示しません。

治療

自然に軽快することが多いので経過観察のみでよい場合が多いのですが、症状の強い時は、症状を押さえる薬を投与することがあります。機能が低下し、その症状が強い時は1~2ヶ月間甲状腺ホルモンを投与することがあります。バセドウ病に用いるメルカゾールやプロパジールは使用しません。

経過

短期間、甲状腺ホルモンの値が高いですが、甲状腺ホルモンが出ない(機能低下)時期を経て数ヶ月で治癒します。機能低下を示さない時もあります。

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