甲状腺とその病気
甲状腺の良性腫瘍
腺腫様甲状腺腫
腺腫様甲状腺腫という病名を初めて聞くという方も多いと思います。そのため、病名そのものから説明したいと思います。
時に甲状腺には"おでき"ができることがありますが、これを医学用語では腫瘍と言います。腫瘍には2通りあり、良性のもの(達の良いもの)を「腺腫」と言い、悪性のもの(達の悪いもの)を「癌」と言っています。ですから最初の"腺腫"はこの良性の腫瘍を意味しています。次の"様"は似ていると言う意味で、最後の"甲状腺腫"とは甲状腺が腫れている、つまり大きくなっているということです。つまり"腺腫様甲状腺腫"とは、甲状腺の良性腫瘍に似ているが、実際にはそれとは異なり甲状腺が腫れている病気だということになります。
顕微鏡で見ると、甲状腺の細胞の増殖と変性・壊死が特徴で良性のものです。
一般的には甲状腺が大きく腫れていて、ひどい場合は首が回らなくなる程度まで腫れて気管が圧迫されていることもあります(図6、図9)。また、腺腫様結節と表現されることもある一部のみが腫れている場合と、全体が腫れている場合があります(図17)。 甲状腺の機能は正常な場合が多いですが、時には高くなることもあります(プランマー病参照)。
検査および診断
一般的にはエコー像や甲状腺機能検査で診断します。通常は、甲状腺機能は正常ないしやや高めで、抗甲状腺抗体は陰性です。陽性の場合は慢性甲状腺炎との合併を考えます。
エコー像では多発性の結節がみられ、一部または全体の細胞が変性し、のう胞化(液体がはいった袋状の形態)や石灰化を示すこともあります。結節が1個の場合は、良性ないし悪性腫瘍との鑑別が困難なことがありますが、その場合は甲状腺組織を顕微鏡検査し判断します。
治療
- 甲状腺機能が正常で病変が小さい場合:定期的に(半年ないし1年毎に)経過観察
- 手術を勧める場合
- 甲状腺が肥大して、気管の圧迫や偏位が強い場合(図6、図9)
- 甲状腺が肥大して縦隔へ伸展している場合:くびの骨と鎖骨に囲まれた狭い範囲に甲状腺の組織が伸展すると、気管や食道の圧迫が生じるため
- 甲状腺癌が合併している場合
- 甲状腺機能が高い場合:抗甲状腺剤や放射性ヨード投与、手術、または結節内にアルコールを注入し治療
濾胞腺腫
濾胞腺腫とは甲状腺の良性腫瘍で、ゆで卵の薄い膜のような被膜を持っています。内部が変性し、のう胞を持つ場合もあります。その場合は腺腫様甲状腺腫(特に腺腫様結節)との鑑別が困難です。また充実性の場合は、被膜や血管への細胞の浸潤を示す濾胞癌との鑑別が困難です。
濾胞腺腫と濾胞癌の診断
腫瘍を顕微鏡で検査して、濾胞癌か濾胞線腫かを診断します。極めてまれですが、経過観察中に悪性を示唆する所見(転移)を認めることがあり、その場合は濾胞癌の診断がされます。
濾胞癌の診断基準
- 腫瘍を覆っている膜を超えて腫瘍細胞を認める時(被膜浸潤)
- 腫瘍内の小血管内に腫瘍細胞を認める時(脈管浸潤)
- 甲状腺腫瘍細胞の転移(肺や骨など)を認める時
甲状腺のう胞
甲状腺のう胞は結合組織の被膜から生成され、腺腫様結節の変性したものが大部分と言われおり、その内部には血液や浸出した液体などを有します。診断はエコー検査で行います(図18)。治療は基本的には穿剌による排液ですが、内部の液体が粘っこいチョコレート状の場合は、ほとんど排液ができないこともあります。排液しても液体が再貯留する場合は、排液後に少量のアルコールをのう胞内に注入し、のう胞を破壊する治療が行われます。この治療を行うと、アルコールが甲状腺外へ漏れる際の頸部の痛みや、発熱、更に甲状腺の後面を走る反回神経の損傷による声のかすれなどの合併症が伴います。
プランマー病
プランマー病は腺腫や腺腫様甲状腺腫などの結節性病変が、甲状腺ホルモンを多量に分泌する病気です。バセドウ病とは異なり、眼の症状はありません。日本では単発性の結節に対して言われることが多いのですが(図19)、欧米では中毒性多結節性甲状腺腫とも呼ばれている多結節(図20)の場合もプランマー病と呼ばれています。
診断
放射線ヨードやテクネシウムによるシンチグラフィ検査
治療
- 抗甲状腺剤投与
- 手術
- 放射性ヨード治療
- アルコール注入 など
多発のう胞性甲状腺疾患(polycystic thyroid disease:PCTD)
平成22年に下記の状態がある場合は、PTCDと呼ぼうとする論文が出ました。
- 甲状腺内にのう胞を多数認める(4個以上)
- 甲状腺機能は低下
- 抗甲状腺抗体陰性の病気
この場合の機能低下の原因はヨード摂取過剰の可能性が高く、ヨード制限が有効と報告されています。これまでは腺腫様甲状腺腫に抗甲状腺抗体陰性の慢性甲状腺炎が合併した病態と考えられていましたので、注目すべき概念ではないでしょうか。しかし、慢性甲状腺の合併を完全には否定できないのではないかと思われます。
コロイドのう胞 *小児に特徴的な甲状腺エコー像*
甲状腺内の無エコー部分に点状高輝度病変が見られる場合を、コロイドのう胞と呼びます。小児では、甲状腺背側から尾部にかけて小のう胞が、数珠状に多発することが多いようです。頻度はかなり高いのですが、発見時から経過観察をした報告では一定の変化は示されません。
食道の憩室
エコー像では、甲状腺の背面に結節のように見える食道の憩室があります。結節の表面近くに、高輝度エコーの弓状陰影とそれから伸びる流れ星状の索状影を有することを特徴としており、それは食道内の空気によるものと考えられています。診断には頸部CT検査や食道造影が有用で、通常は特別な治療は必要としません。甲状腺の結節と見誤って細胞診を行わないことが大切です。